かもちゃんがゆく! は、閉鎖しました。

アクセスカウンタ

zoom RSS 「新しい労働社会」をどのように実現するのか? 〜 「新しい労働社会」 濱口桂一郎 著 読書感想文

<<   作成日時 : 2011/07/12 05:33   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 3 / コメント 0

筆者のブログ(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-2e58.html)によると、本書はかなり売れているらしい。正直言って、今の出版状況の中、岩波新書で「6刷」というのが、どのくらいすごいのか見当がつかないのだけれど、たぶんきっとすごいことなのでしょう。
本書の「はじめに」の冒頭に書かれているように、労働問題は社会の注目を集めるテーマとなっているものの、問題の本質にまで立ち入った議論は乏しいというのが実情なのでしょうから、そのような現状に不満を抱いている人々が、問題の本質にまで立ち入った議論を求めて本書を手に取っているのではないでしょうか(勝手な推測ですが。)。

http://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E2%80%95%E9%9B%87%E7%94%A8%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%86%8D%E6%A7%8B%E7%AF%89%E3%81%B8-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%BF%B1%E5%8F%A3-%E6%A1%82%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4004311942/ref=ntt_at_ep_dpt_1
画像


目次を見てみましょう。

はじめに
序章 問題の根源はどこにあるか 日本型雇用システムを考える
 1 日本型雇用システムの本質 雇用契約の性質
 2 日本の労務管理の特徴
 3 日本型雇用システムの外側と周辺領域
第1章 働きすぎの正社員にワークライフバランスを
 1 「名ばかり管理職」はなぜいけないのか?
 2 ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実
 3 いのちと健康を守る労働時間規制へ
 4 生活と両立できる労働時間を
 5 解雇規制は何のためにあるのか?
第2章 非正規労働者の本当の問題は何か?
 1 偽装請負は本当にいけないのか?
 2 労働力需給システムの再構成
 3 日本の派遣労働法制の問題点
 4 偽装有期労働にこそ問題がある
 5 均衡処遇が作る本当の多様就業社会
第3章 賃金と社会保障のベストミックス 働くことが得になる社会へ
 1 ワーキングプアの「発見」
 2 生活給制度のメリットとデメリット
 3 年齢に基づく雇用システム
 4 職業教育訓練システムの再構築
 5 教育費や住宅費を社会的に支える仕組み
 6 雇用保険と生活保護のはざま
第4章 職場からの産業民主主義の再構築
 1 集団的合意形成の重要性
 2 就業規則法制をめぐるねじれ
 3 職場の労働者代表組織をどう再構築するか
 4 新たな労使協議制に向けて
 5 ステークホルダー民主主義の確立


目次を見てもわかるとおり、労働をめぐる諸問題を取り上げているのだけれど、あまりに項目が多すぎて、正直言って、消化不良に陥った。一つ一つの中身も、かなり濃いというか深いというか、とにかく簡単に消化できないのです。
(新書といっても、岩波だからなぁ・・・・などと書くと、「属性攻撃」と批判されるかもしれないのだけれど。)


筆者によると、日本型雇用の本質というか特徴は、次の二つということらしい。
一つは、「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」であるということ。
もう一つは、企業別組合は団体交渉を行う労働組合としての機能を有するとともに、すべての労働者を代表する労働者代表機関としての機能をも有するということ。

前者の「メンバーシップ型」であるという点は、日本の「就職」は「就職」ではなく「就社」であるという言い方で昔から言われていたことのように思われ、「メンバーシップ型」という用語はともかくその主張内容は特に新しくはないと思う。
(脱線するけど、本書を読んでも、「著者は日本の雇用関係が「メンバーシップ」にもとづいているという大発見を最近したそうだが、」とは読めないので、そのような決め付けを前提に、「先行研究があるときは、それを引用するのが学問の世界のルールだ。新書はかまわないが、今後、著者が「メンバーシップ」について言及するときは、拙著を必ず参照していただきたい。」とする池田信夫氏の指摘(http://www003.upp.so-net.ne.jp/ikeda/hamaguchi.HTML)は、確かに変だと思いますね。その点を含め、この「書評」は、結局のところ何を言いたいのか良くわからないというのが率直な感想。(池田氏の「書評」についての筆者の指摘はこちら http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-5545.html))

一方の、組合の機能の議論については、少なくとも自分にとっては新しい話である。
そして、家計補助的な主婦パートや学生アルバイトを意味していたはずの「非正規労働」がバブル崩壊以降変質してきたこと(=ワーキングプア問題の発生)、それにより、従来の正社員のメンバーシップである企業別組合のままでは直面する課題の解決に当たれなくなってきていることについては、納得感を持ちつつ読むことができた。

では、どうすべきなのか。

どうやら、企業別組合が、非正規労働者や管理職という、従来排除してきた労働者を新たに包含することにより、すべての労働者を代表する機関として位置付け直されるべき、という主張と思われる。それにより、筆者の主張する「産業民主主義」を再構築すべき、ということらしい。
(本書187頁 「現在の企業別組合をベースに正社員も非正規労働者もすべての労働者が加入する代表組織を構築していくことが唯一の可能性であるように思われます。」)

しかし、この筆者の主張には疑問を抱いた。
現実に企業別組合がそのように変化できるのだろうか。
企業別組合の構成員たる正社員と非正規労働者とは賃金原資の再配分をめぐって利害が対立する、ゼロサムな関係にあるはず。それなのに、企業別組合が非正規労働者への配分を厚くするよう行動するということが、理念の世界はともかくとして現実問題として期待できるのだろうか。
特に、もっとも厳しい局面である整理解雇の場面を考えてみよう。今の整理解雇ルールでは、正社員を整理解雇するためにはそれに先立って非正規労働者を解雇することが必要とされる(これって、今の時点では無茶苦茶な話だとも思うけれど。)。メンバーシップを守るために、その周辺を先行して切り捨てることがルール化されているわけである。筆者はそのルールの変更も提唱しているが(とは言え、判例ルールであり、どうやって変更するの?という問題があるのだけれど。)、少なくともそれが直ちには変更されないであろう中にあって、「いざ」という場面で、企業別組合は非正規労働者の利益にも考慮した行動が取れるのだろうか(そのようなことをするというのは、ゼロサムな状況下においては、非正規労働者よりも正社員を先に失職させることがあり得るという意味になってしまうわけだが、そんなことが本当にできるのだろうか。)。

本書のタイトルである「新しい労働社会」というのが何なのかについての端的な記述は見あたらないと思うけれど(見落としていたらごめんなさい。)、上記のように「再構築された産業民主主義」ということであるならば、それは具体的にどういう手続きで実現していくのか(174頁での賃金制度改革についての記述参照)を明らかにしないと、筆者の主張に説得力を感じられないのだが。(そして、それは不可能なことではないかと直感するのだが。)


・・・と書いて、何だか批判的な感じになってしまったのだけれど、繰り返すけれど、本書は、労働問題に関するさまざまな話題をかなりてんこ盛り状態にしており、しかも一つ一つがかなり高度な内容になっており、正直って自分には消化不良である。

既に多くの方々が手に取ったようであり、それら多くの方々が、このようにかなり難解な本をきちんと消化できたのであれば、それはそれで、労働問題に関心を抱くひとびとの広がりと質の高さを意味するわけで、すごいことだと思うし、自分の消化能力が低いことを恥じるだけなのだが。



ついでに。
本書で若干言及されている労働政策の「三者構成原則」なるものについては、国民主権ないし民主主義との関係をどう考えるべきなのかをかねてから疑問に思っているのです。
労使の合意の重要性から三者構成の重要性を主張する「想い」はわかるのだけれど、でも、しょせん審議会は大臣の諮問機関であって、それ自体が決定機関というわけではないので、三者構成をとってみたところで実際に国会提出する閣法が審議会の意見どおりであることは担保されないわけです(この点が派遣法で露呈してしまったけれど。)。そして、審議会の意見と同内容の閣法が提出されても(普通はそうだけれど。) 、立法府はこれを修正することができるし、否決することも可能なわけで、それにもかかわらず「三者構成が重要」というのは、いったい、どういう意味があるのでしょう?
(単に、「現代国家は行政国家だから」ということなのでしょうか?あるいは逆に、いっそ「国会に職能代表制を導入してしまえ」という主張であれば(実現可能性はさておき) それはそれとして理解できるけれど。)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
hamachanブログで紹介されました!「新しい労働社会」感想文が。
労働問題をくわしく解説してくれるhamachanブログに、「新しい労働社会」についての小生の感想文(http://pu-u-san.at.webry.info/201107/article_30.html)が紹介されました。 ...続きを見る
かもちゃんがゆく!
2011/07/12 22:21
7月のアクセスは1日平均1,393.3
7月のアクセス件数は41,798 (PV) 1日平均は1,393.3 ...続きを見る
かもちゃんがゆく!
2011/08/01 21:32
平成23年(2011年)の読書感想文 総まとめ
ブログをはじめた本当の動機は、いろいろな本を読んでその感想文を書きたいなあ、というものだったのです。 その割りにはさっぱり感想文を書いていないのだけれど、それでも昨年はそれなりに感想文を書いたのでした。 新年になったことでもあり、振り返ってみるのです。 ...続きを見る
かもちゃんがゆく!
2012/01/03 12:14

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
「新しい労働社会」をどのように実現するのか? 〜 「新しい労働社会」 濱口桂一郎 著 読書感想文 かもちゃんがゆく! は、閉鎖しました。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる