「事業主負担」は、結局、誰が負担するのか?

健康保険や雇用保険では、保険料の一部を被保険者(労働者)本人ではなく、事業主が負担しています。
健康保険では労使が折半(事業主が上乗せ負担することは可能。)。雇用保険では本体給付(失業給付など)に当てる部分は労使折半で、この他に雇用開発や能力開発の事業に当てるための部分があって、その部分は全額事業主が負担。
さて、この「事業主負担」というのは、結局のところ、誰が負担することになるのでしょう?

そんなの、会社が負担するんだから、それで終わりじゃん。
と思うと、どうやらそんなに単純な話ではないらしい。

昔、岩田規久男先生の本を読んで知ったところでは、事業主負担も事業主にとっては結局は給料の支払いと同じ人件費コストにすぎないので、仮に事業主負担を引き上げることになれば給料をその分引き下げるだけのこと。したがって、事業主負担を引き上げろと労組が主張するのは、経済学的に見ればナンセンス。といったことでありました。

なるほど、ミクロ経済学的な分析ではそうらしいのです。

じゃあ、労組が満足するように、「社会保険料は全額事業主負担」って決めちゃえばいいじゃないか。
もちろん、経営者側は大騒ぎになるはず。「そんなことをされたら、会社が潰れてしまうぞ!」ということに。でも、「その分、賃金を引き下げれば良いんですよ」と話をして、みんなが「そうか、なるほど。」と納得すれば良いんですよね。

一方、労組の方は「全面勝利!」と大喜びになるはず。
それを見て、経営者側はニンマリすればよい。

そういうのを、「朝三暮四」というわけです。

・・・といったことを、当時、思ったものでした。


ところが、厚生労働省の人と話をしていて、そういう話をしたら、「そんなに単純な話じゃないよ。」ってなことを言われて。
どうやら、労働経済学の世界では必ずしも一般のミクロ経済学と同じ見解ではないらしいのです。
本ブログで岩田先生のことを書いたら(http://pu-u-san.at.webry.info/201101/article_21.html)、そのことに関連するコメントが来ました。(http://pu-u-san.at.webry.info/201101/article_21.html#comment
このコメントで紹介されている『社会保険料の転嫁問題に関する経済学者の誤解』http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare204.pdfを見たら、これまた説得力のあるお話が。

さてさて、こういうのって、理屈で議論していてもらちがあかないよね。実証的な研究はどうなっているのかしら?と思っていたのだけれど、2月10日の日経経済教室欄に、まさにそこに触れた「社会保険の最終負担 誰に」との論考が載っている。筆者は東大の岩本康志教授。

これによると、実証的に見て、事業主負担は労働者に転嫁されている、のだそうです。
これを理解するに、「事業主負担を引き上げた分、給料を引き下げる」という露骨な話ではないかもしれないけれど、とにかく結局は給料が下がっていく、ということなんですね。
つまり、結論においては岩田先生と同じことになるわけで。

ただし、実証研究の結論は一様ではないとのことなのです。それは困ったね。論者によって理屈が異なるのは仕方ないと思うけれど、客観的なデータの分析が分析者によって異なるというのは、変だなぁ。
まぁ、そこは何とか整理していただく必要があるのだけれど、仮に、労働者に転嫁されるというのが本当だとしたら、どう考えればよいのか。

先に書いたように、事業主が全額負担するということにしてしまえばよいのでしょうか。そうしても、事業主は実質的に負担が増えるわけではなく(全部転嫁してしまうから。)、一方、組合側は満足してしまう。うん、これはうまい話だ!と。
でもなぁ、転嫁できる事業主とできない事業主とが出てくるのだろうなぁ。転嫁できない事業主は潰れてしまうことになるけれど、それでよいのだろうか。それは困るから労組側も給料引き下げを飲むようになって、結局は引き下げになるということなのかしら。

・・・・といったことを考えていくと、最終的負担者が明らかになったとしても、それを政策的議論にいかに反映させるかは、それはそれでかなり難しい話になりそう。

・・・・といったことを思ったのでした。

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