状況は変わっても目からうろこがぼろぼろと ~ 「間違いだらけの経済常識」岩田規久男 著 読書感想文 

本棚を整理していたら、昔読んだ本が出てきた。
奥付きによれば、「1991年10月15日」に発行されたらしい。ちょうどこのころ、経済全般に関連する部署にいたのだけれど、何せろくに経済学を勉強したことがないので、危機感に駆られて読んだのだと思う。
経済学フリーと言っても良い当時の自分にはなかなか衝撃的な内容だったのだけれど、特に、地価に関連する「高級ホテルのコーヒーが千円もするのは地価・テナント料が高いからか?」の話は、なるほど経済学というのはこのように考えるのか!と非常に強い衝撃を受けたものだ。
(同じ筆者の本について「プロを軽視する国」への絶望的な警鐘 ~「日本銀行は信用できるか」岩田規久男 著 読書感想文http://pu-u-san.at.webry.info/200908/article_34.html 「学者が怒ると結構すさまじい ~「経済学的思考のすすめ」 岩田規久男 著 読書感想文」http://pu-u-san.at.webry.info/201101/article_21.html

http://www.amazon.co.jp/%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%A0%E3%82%89%E3%81%91%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%B8%B8%E8%AD%98%E2%80%95%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E3%81%8C%E6%9A%B4%E3%81%8F%E4%BF%97%E8%AA%AC%E3%81%AE%E3%82%A6%E3%82%BD-%E5%B2%A9%E7%94%B0-%E8%A6%8F%E4%B9%85%E7%94%B7/dp/4532140641


目次から、主な話をピックアップすると、

高級ホテルのコーヒーが千円もするのは地価・テナント料が高いからか?
年中渋滞しているクセに、高速料金を上げるのはおかしい?
地球環境保護によるコスト増を消費者に転嫁するのはおかしい?
社会保険料の企業負担が大きければ、従業員の負担は軽くてすむか?
石油ショックで原油が乱高下するのは投機のせいか?
安く買ったときの原油で作った石油製品は安く売るべきか?
地価が上昇したのは地代・家賃が上昇したからか?
土地問題解決のためには、と地上と税を緩和して売りやすくすべきか?
公定歩合を引き上げれば、金融は引き締まるか?
大口投資家にだけ損失補てんするのは不公平か?

・・・などなどといった、(当時の) 世の中に広まっている経済常識について、主にミクロ経済学(すなわち価格理論)の立場から、その誤りを、快刀乱麻のごとく明らかにしていく、という趣旨の本。


久しぶりに読んで感じるのは、「あぁ、時代が違うなぁ。」という点。筆者の主張する経済学のロジック自体は変わらないのだけれど、例として出てくる話が、何とも、バブリーという印象。

たとえば、
11頁
「銀座でここら辺りの10倍もの金を払って水割りを飲む人たちがいるらしいね。たいていは、自腹を切るんでなくて、会社の交際費でおとしているようだけどね。」
という話は、今なら失笑ものではあるまいか。
(いえいえそんなことはありませんよ。ヒルズ界隈では今でもそうですよ、ということかもしれないのだけれど。)

環境税をめぐる記述(26頁)も、今時点で読むとなんともほほえましい。

139頁以降に出てくる、地価についての記述は、「バブル退治」に関連した話を熱心に論じているわけで、今の時点で読むと、何とも言えない感慨が沸いてくる。

まさかこの後、「失われた20年」が来るとはさすがの岩田先生も予想しておられなかったのでしょうね。


例示されている話は古くなっているものの、経済学をきちんと学んだ人には自明でもそうでない者にとっては、「目からうろこ」な話がてんこ盛りになっており、そのロジックに付いては古びていないと感じた。
(とは言え、マクロ経済に関する部分やファイナンスに関連する項目は、やっぱり難しく、正直言って、わかりません。


なお、本書の記述に触発されてなのだけれど、世の中に対して、ひとことふたこといいたいことがある。

15頁に、
「土地の値段というのは、その土地から最大限、どれだけの収益が上げられるかによって決まってくるわけだ。」
とあるけれど、これは土地に限らず資産一般の評価について言えること。しかし、この道理がどの程度共通理解になっているのだろうか。
17頁には、
「安く買った地主も、時価で買った地主と同じように行動するんだね。」
とあるが(つまり、「その土地をいくらで買ったか」ということと、「いくらで売るか」とは関係ない、ということ。)、現実にはなかなか分かってもらえないことをどう考えるべきなのだろうか。
世の中で起きている資産売却をめぐるさまざまな出来事を見ていると、ときどき、絶望しそうになるのです。



61頁以降の話は、要は、社会保険料の事業主負担なるものについては、実は「事業主負担」ではなく、「労働者負担」なのだ、ということ。
この点については、前にも「事業主負担」は、結局、誰が負担するのか?」http://pu-u-san.at.webry.info/201102/article_37.html「葬式の支払いが済んだ。(平成23年3月8日のかもちゃん) 」http://pu-u-san.at.webry.info/201103/article_31.htmlで書いたけれど、いろいろなご意見があるらしくて、正直言って、全然わからないのです。筆者が言うのが正しいのであれば、事業主が全部かぶることにしちゃえばいいよね。それで喜ぶ労働者は「朝三暮四」なのだけれど。


65頁に
「企業は、不合理なことでもなんでもできて、従業員は不合理なことでもなんでも我慢しなければならない。そういうように思い込んでる人は確かに多い。」
とあり、筆者は「そうではない」という主張をしたいのだけれど、そしておそらく理屈の上ではそうなのだけれど、昨今、「ブラック企業」なるものが横行しているとされるのは、どのように理解すればよいのでしょうか。
筆者の想定する健全な労働市場は、実在しない、空虚なものなのでは?



そのほか、印象的な記述箇所。随所で筆者の怒りが伝わってくる。そうです!経済学者は、怒らねばなりません。

24頁
「価格をうまく使わずに、貧乏な人にでも誰にでも安く手に入れさせようとして価格を据え置くと、実際にはその価格では買えずに行列ができるってことになる。」

25頁
「価格を使って経済を活性化させ、パイをできるだけ多くしたうえで、誰もが人として最低以上の生活を送れるように、金持ちから税金をとって、あまり金のない人に所得を分配する、そういう方法のほうがうまくいくね。」

53頁
「企業が負担するってことは、その企業に関係する誰かが負担するってことなんだよ。・・・革新的だと自称したり、世間で思われたりしている人たちっていうのは、なんでも法人大企業に負担させればいいっていうけど、その場合には、その法人企業に働く人たちの賃金が減らされるかも知れないんだよ。」

56頁
「国民の誰ひとりもが、負担を増やさずに、大気汚染の状況を改善できるなんて考えるのは、いってみれば夢物語みたいなもんなんだよ。」

58頁
(「経済っていうのはなかなか厳しいものですね。」という発言に対して、)「当たり前です。そういう厳しさを理解しないで、何か企業のような、第三者みたいなものが適当に負担してくれるだろうっていう、そういう甘い幻想は早く捨てないとね。」
(なお、この後に出てくる「環境税を導入して、その税収を所得税減税に回せって主張したらどうですか。」のくだりには異論がある。所得税減税の恩恵をこうむるのは当たり前だけれど所得税の課税対象者であるわけで、ここで論じられるべきは課税水準を下回る家計の話ではあるまいか。なので、たとえば、「その税収を生活保護に回せって主張したらどうですか。」という発言になるべきだったのでは。でも、このような主張は世間には受けいれられにくいような気がする。)

67頁
「最終的に負担するのは個人であって、企業が負担するってことは基本的にあり得ない。」

70頁
「とにかく国が負担しろっていいかたをよくするね。でも、・・・国っていう、われわれ国民とは遊離したものが存在していてそれが負担してくれるということはあり得ないことなんだ。・・・国が負担しろっていうときには、もっと所得の高い人が負担しろとか、そういういいかたをしなければいけないんだよ。国が負担することによって、誰も負担せずにすむような、そういう錯覚を与えるようないいかたはやめたほうがいい。」

80頁
「先物を利用する取引には・・・むしろ危険を避けることにも使えるんだ。・・・もうかる投機は価格を安定させるってことがわかるだろう。」

91頁
「人間は得られるものと失うものとを比較しながら行動してる」

145頁
「理不尽かどうかは誰が決めるの?土地を借りてる方が勝手に決めてるんじゃないの?」

146頁
「日本では借地・借家取引は特殊な取引になっているってことなんだ。・・・実際には、借地・借家法っていうのがあって、地主は地代が不相当に安くならない限りは値上げできないことになっている。だけど、いったい不相当か相当かはどうやって決めるのか。・・・借地契約が結ばれた土地の地代は、市場の実勢を反映して上昇していかないから、その土地は、借地契約が結ばれていない土地よりも市場では低く評価されてしまう。」
(ところで、この話が出てくる「第11話」のタイトルは「地価が上昇したのは地代・家賃が上昇したからか?」とあるのだけれど、このタイトルは他の話のタイトルと違って、筆者の主張から見ても(つまり、正統的経済学の立場から見ても、)正しいのではないかと思うのだけれど、どうなのでしょう?)

150頁
零細な土地所有者に対しては、都心に近くなればなるほど、共同で中高層の住宅に立て替え、自らはその一室に住みつつ、他のフロアを他人に貸したり、あるいは分譲したりするというように生活様式を改めてもらう必要があります。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック