これこそ、リーダーシップ。 ~「わが上司後藤田正晴 決断するペシミスト」 佐々淳行著 読書感想文

「さっさ」と言っても、「サッサ」ではなく、「佐々」と言えば、戦国時代末期の武将「佐々成政」。
豊臣と徳川の、その後の運命を決定してしまった「小牧長久手の戦い」に参加しようとしたものの、その前に秀吉・家康が和睦してしまったので、進退窮まって「アルプス越え」を決行したことで有名な、織田軍団きっての猛将。

その直系ではないらしいけれど、一族の末裔に当たるのが、本書の筆者、佐々淳行。
我が国における「危機管理」のエクスパートであり、初代の「内閣安全保障室長」。

その方が、立場はいろいろ変わったものの結果的に長く仕えることになった後藤田正晴(元内閣官房長官、副総理)との関係を中心に、危機管理にまつわるさまざまなエピソードを紹介している。

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今から見ても、本書には読みどころが多い。
いちいち紹介するときりがないが(できれば本物をお読みください。)、やはり注目いたしたいのは、後藤田五訓(140頁~)。
中曽根内閣時に内閣官房を強化するためとして、新たに5室(内政審議室、外政審議室、安全保障室、情報調査室、広報官室)を設置した時の、後藤田官房長官の訓示がそれ。
本書によると、これを「五訓」にまとめたのは筆者で、後藤田長官本人が「後藤田五訓って、何だ?」といった感じだったらしいのだが。

1 省益を忘れ、国益を想え
2 悪い、本当の事実を報告せよ
3 勇気を以て意見具申せよ
4 自分の仕事でないというなかれ
5 決定が下ったら従い、命令は実行せよ

(注:原文は漢字+カタカナ)

確かに、この簡潔な指示がきちんと守られたら、多くの「組織病」が解決してしまうだろう。
しかし、現実にはそうではなく、149頁にあるとおり、
1 国益をそっちのけにして省益を争い
2 悪い本当の事実は報告せずに上司に心地の良い情報ばかりあげ、
3 大事なときには意見具申せず沈黙して不作為を守り、
4 何か起きると「オレの仕事ではない」と消極的権限争議に耽り、
5 決定が下っても従わず、命令はなし崩しにうやむやにする
という、官僚主義が横行している。

本書には、その「現実」に対する悲憤慷慨がこれでもかこれでもかとばかりに詰め込まれている。


そのためか、あちこちに、ちょっと「?」を付したくなるような記述も見られるが、この手の本の宿命としてそれはそれで受け止められるべきであろう。


まさにジェットコースターのような、上がり下がりの激しい役人人生であるわけだが、しかし、このような本を出せたということは、やはり、それなりに幸せな役人人生だったのではないだろうか。



ところで、プロローグには、後藤田官房長官の退任挨拶が紹介されている(15頁)。
涙を流さずに読めなかったのでありました。
「一将成りて万骨枯る」とは対照的なリーダーがここにいるではないか。

50年近い私の公職人生の中で、私には、大きな心残りがあります。
それは、過ぎし第2次安保闘争という騒乱状態を鎮めるため、警察は延べ600万人の警察官を動員し、殉職者十有余名の負傷者を出しました。
なかには生涯なおらない後遺症をのこし、今も苦しんでいる人々がおります。
私は警察庁長官として、警察官たちに「忍耐」を求め、必要以上の実力行使を慎むように命じ、この騒乱を鎮めることができました。
だが、その蔭にこうした大きな犠牲を警察側に課したということについて、私は心が傷み、これからも私にとっての心の重荷となることでしょう。



混迷の世を憂える世の中の方々に一読をおすすめしたい。

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